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最高裁判所第一小法廷 昭和29年(オ)971号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告論旨は、本件土地の埋立工事を上告人の義務であると判断した原判決を非難して、それは上告人の権利であつて義務ではないと主張している。その所論は、証拠の取捨判断・事実認定の非難と見られる節もあるが、原判決において上告人の埋立工事義務を認めるに当つて、「埋立工事の具体的施行そのもの、即ち自ら施行するか、他人に請負わせるか、又埋立の程度、石垣の築造、排水施設等については、加持の裁量に属するものと謂えるが、埋立工事を施行すること自体は矢張り被控訴人等に対する義務である」と説明している点は、表現が妥当を欠くきらいがないではない。これでは埋立工事の具体的内容の一切を債務者の裁量にまかした埋立工事の義務を認めたようにもとれないことはない。そうすると、かような埋立工事の義務の認め方は、その説明に矛盾を感ぜしめるものがあり、論旨のような非難を招く結果を生ずることとなる。

しかし、原判決は「本件契約は右加持の埋立工事施行及び坪当五百円の割合の金員の支払義務と、被控訴人(被上告人)等の目的物件の引渡及び登記手続とは双務契約の関係にあることが認められる」と判示している。そして「本訴の請求は……右加持の本件契約上の地位即ち本件双務契約上の権利義務一切を包括して譲受けたと主張してその確認を求めているもの」とした。

それ故、埋立工事の義務が加持にあるかどうかの問題をしばらく措くも、加持は坪五百円の割合の金員の支払義務を有することは明らかであるから、原判決が前記のように契約上の地位乃至権利義務一切の包括譲渡については、債権者である被上告人らの承諾なくしては同人等に対して効力を有しない旨を判示して、上告人の請求を認めなかつたことは、結局正当である。だから、論旨は採ることを得ない。

その余の論旨において違憲をいう点もあるが、その実質は当事者間における権利譲渡の自由を前提とするものであるが、当事者間における権利譲渡の自由とその譲渡が当事者外の第三者(本件においては被上告人ら)に対して効力を有することとは別問題である。それ故論旨の前提は採ることを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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